カルテの余白 患者さんとの出会いカルテの余白 患者さんとの出会い

エピソード2

365日スケジュール

私が診療しているALS患者さんのなかに、病気をものともせず、毎日を明るくすごしておられる患者さんがいます。このFKさんをお宅に訪問した際のエピソードをご紹介します。

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忙しくて病気を忘れてしまいそう

FKさんは、とてもおしゃべりの好きな女性の患者さんで、私もいろいろなお話をいたしました。 時には会話に夢中になり、呼吸が苦しくなることもありますが、決して会話をやめることがありません。私が、「少し休みましょうか?」と聞いても、「いいえ、大丈夫です」と 、おしゃべりを続けられます。

FKさんのお宅には、絶えず人が出入りしていて、ご商売でもなさっているのかと思うほどにぎわっています。そこは、まるでサロンのように、いつも楽しい話し声が絶えません。

FKさんは、一時もじっとしていられない性格で、いつも何かをしていないと気がすまないのです。365日を有効に使うために、壁のカレンダーにはぎっしりスケジュールが書き込まれています。

最近、手足の麻痺と呼吸器の障害が少し進行してきていますが、不自由ながらもお友達にワープロの手ほどきをするなど、「毎日が忙しくて病気を忘れそうです」とFKさん。

彼女の明るさと積極性に、私たち医療従事者は、逆に励まされ、勇気づけられます。

FKさんを支える俳句仲間、おしゃべり仲間

FKさんは、元米穀店の「看板」ともいえる名物「おかみさん」でした。その店は、いつも近所の人達が立ち寄っては話し込んでいく、活気のあるお店だったといいます。

ご主人が亡くなり、息子さんの代になると、お米がスーパーで購入できるようになったことが影響して、店をやむなく閉じることになりました。けれども、社交好きなFKさんのところには相変わらず人が集まり、店が繁盛していたときと同じくらい、楽しいおしゃべりが絶えませんでした。

1997年68歳のとき、FKさんは手足に異常を感じて、東邦大学病院を受診しました。そのとき、ALSの診断を下したのが私で、その後、定期的に診察を受けています。

 FKさんには、息子さんのほかに40歳になる娘さんがいます。その娘さんは、重症筋無力症という難病を抱えていますが、いまのところ、薬を服用しながらほぼ支障なく日常生活を送れる状態なので、FKさんの家事や身の回りの世話をしています。

最近、手足の麻痺と呼吸器の症状も少し進行してきています。こんな困難な状況のなかでも、FKさんのまわりにはいつもおしゃべりと笑い声が絶えず、昔学校の先生をしていた彼女は、友達といっしょに俳句を詠んだり、ワープロを打ったりして、毎日を楽しく忙しく暮らしているのです。

そして、今もFKさんの「365日スケジュール」は予定でいっぱいです。

(1999年10月作成)