ALSの原因は?

病気の原因を究明するための研究は目覚しい進歩を遂げていますが、現時点では病因はまだ明らかになってはいません。これまでの研究から、原因ではないかとされているいくつかの仮説のうち、主なものを見てみましょう。

1.グルタミン酸過剰説


からだのどこかを動かしなさいという命令は、脳から発信され、運動ニューロンを介して筋肉に伝えられます。このニューロン(神経細胞)をもっと細かく見てみると、①神経細胞体、②神経細胞体から木の枝のように多数突き出している樹状突起(じゅじょうとっき)、③1個の神経細胞体から1本だけ伸びている軸索、という3つの部分から成っています。
この軸索の端と隣の神経細胞の間には、わずかなすきまがあり、この部分はシナプスと呼ばれています。脳や末梢神経からの命令は、このシナプスを介してニューロンが受け取り、それを電気信号として軸索に伝えていきます。その軸索の端まで伝わった電気信号は、またシナプスを介して次のニューロンに伝わっていきます。このとき、軸索の末端から、グルタミン酸をはじめとする神経伝達物質という化学的な物質を出して、次のニューロンがこれを受け取り、それが電気信号に変わって軸索に伝わっていくというしくみになっています。

ALSの患者さんの運動ニューロンは、シナプスから出てくる興奮性アミノ酸であるグルタミン酸を再び取り込む機能が障害されるため、神経細胞の外のグルタミン酸が過剰になって神経細胞が死滅するのではないか、と考えられています。
 

2.環境説


紀伊半島などで、ALSの患者さんが他の地域より多く発症したことから、環境の中にある何かが原因なのではないかという説です。
 

3.神経栄養因子欠乏説



神経を成長させたり、傷ついた細胞を回復させたりするのに必要な栄養成分が欠乏することによって、運動ニューロンが壊されるのではないかという説です。
 

4.家族性 / 遺伝性説


ALSは、日本でも海外でも、約90~95%が遺伝と関係なく発生し、家族性のALSは約5~10%といわれています。
家族性のALS患者さんの一部に、活性酸素を解毒する酵素(SOD1)をつくる遺伝子の突然変異が発見され、これが運動ニューロンを死滅させる原因の一つではないかと考えられています。SOD1遺伝子の変異は、家族性ALSの患者さんの約20%にしか見つかっていませんが、それ以外のALSの患者さんの運動ニューロンも、活性酸素により死滅しているのではないかという仮説もあります。
 

MAT-JP-2108393-2.0-12/23